PROJECT
「シエリアタワー千里中央」は、事業者選定の競合入札があった2010年から、マンションの竣工・引渡しの2019年まで、10年にも及ぶ一大プロジェクトである。商住一体の複合再開発・回遊デッキの整備・定期借地権付きマンションという複雑な事業スキームの中、メンバーは自身のミッションを果たすべく奮闘した。
北大阪急行電鉄南北線と大阪モノレール本線が乗り入れる「千里中央」駅から徒歩1分の好立地。もともとその場所に建っていたのは、総合カルチャーセンター「よみうり文化センター」である。築年数が30年以上経過し、建物の老朽化が懸念されていた。
本プロジェクトは、地主である読売新聞大阪本社と讀賣テレビ放送(以下「よみうりグループ」)が、関電不動産開発と関西電力(以下「関電グループ」)を共同事業者として、「よみうり文化センター」を再整備し、それぞれ商業施設とタワーマンションに建替えるものである。
商業施設は「SENRITOよみうり」として2017年4月に全面開業し、現在、約60の店舗やクリニックが営業している。そして、関電グループが開発を手がけた「シエリアタワー千里中央」が2019年2月に竣工。552戸・52階建のタワーマンションは、建物の最高点255m(海抜70m、建物185m)と、関西最高峰のレジデンスになった。北大阪急行の延伸を控え、千里中央地区は官民一体となった大規模な再整備が予定されており、街区「SENRITO」はその先駆けとなる。
「シエリアタワー千里中央」のプロジェクトリーダーを務める大谷は、商品企画、スケジュールや事業収支の管理を統括するとともに、「SENRITOよみうり」を含めた事業全体(街区「SENRITO」)の工程管理、許認可申請、行政との折衝も担当。もともとの商業施設から新しい商業施設への移転等、各テナントの開業時期が複雑に絡みあうことや、商業施設、マンション、駅を結ぶ回遊デッキを設置することなど、共同事業者・社内の関係部署・グループ会社・設計事務所・建設会社・行政を同時並行的に取りまとめる必要があった。
建築企画を担当する堀川の業務もまた、多岐に渡った。まず商品企画では、外観のほか、エントランスホールやラウンジ、スカイガーデン、パーティールームなど共用部分の仕様を決める必要があった。さらに、全タイプの標準プランとメニュープランを決定し、フリープランにも対応。また、建築コスト管理においては適正金額で請負契約を締結し、工程管理においてはマスター工程を遵守できるよう調整を図った。
「シエリアタワー千里中央」は、商業施設も含めた大型開発であることに加えて、定期借地権付きマンションという特性ももつ。定期借地権とは、マンション購入者が地主(今回であれば、よみうりグループ)から一定期間、建物の敷地となる土地を借りる権利がある、ということだ。本プロジェクトでは着工時に存続期間73年(工事期間3年、定期借地期間70年)が設定されている。
定期借地権であるため、工期や事業スケジュール、とりわけ、引渡し日については、通常の所有権物件よりも強い制約がある。とくに検査工程(事業者の竣工検査等)や引渡し工程(マンション購入者の内覧会等)は当初からタイトなスケジュールが組まれていたため、堀川は常に工程管理に留意し、早い段階から各方面へ働きかけを行った。
2010年に始動し、数年かけて商品企画や設計が行われたプロジェクトは、2016年5月にいよいよ案内開始の日を迎えた。販売責任者を務めた坂本は、怒涛のような日々だったと、当時を振りかえる。
販売センターは、関電不動産開発と販売会社6社あわせてスタッフが20〜30名にもなる大所帯である。販売スケジュールやシナリオの作成、顧客分析、価格調整、価格決定、関係先対応など、大規模物件ならではの業務もこれまでになく多かった。
関電不動産開発の旗艦事業のため同業他社の注目度も高く、絶対に失敗はできないという重圧がのしかかった。
しかし、「シエリアタワー千里中央」で来場予約の受付を開始すると、あっという間に日程が埋まった。午前と午後に振りわけ、1クール20組に限定。坂本はスタッフに的確な指示を出し、現場をとりしきった。
想定の数をはるかに超え、6ヶ月間で1400件以上のお客さまにご来場いただき、第1期分譲住戸で約300戸をご契約いただくことになる。その後も販売は好調を維持し、竣工前に全552戸が完売した。
今回のプロジェクトは、商住一体の複合再開発・回遊デッキの整備・定期借地権付きマンションという、非常に複雑な事業スキームだった。そんな中、不動産開発のプロとして、マンション単体だけではなく全体を俯瞰的に見ながら事業を最適化できたことに、大谷は手応えを得る。事業者選定の競合入札があった2010年から、マンションの竣工・引渡しの2019年まで、10年にも及ぶ一大プロジェクトである。大谷は、自身の仕事観をつくるともいわれる30代を、その10年と重ねあわせることになった。
また堀川は、このプロジェクトで、基礎から応用までさまざまなことを経験し判断することの重要性を学んだ。関係者は多い。制約も多い。それでも、デベロッパーが判断しないと、プロジェクトは前に進まないのだ。納期とせめぎあいながらも妥協を許さず素材を選び、しつらえた空間は、堀川の中で確かな自信となった。
そして坂本は、「シエリアタワー千里中央」が今後の定期借地権付きマンション販売の試金石になると確信している。定借物件の場合、一般的に所有権物件の約8割程度が価格設定のラインとなるが、残り2割程度分の現金を手元に残せるということがシニア層の購入の後押しとなった。一方ファミリー層についても、住宅ローンの支払いと地代を含めたランニングコストの合計金額に納得感があれば、土地が所有できないことに対する抵抗感は払拭できるはずだ。
前例がない、ということを恐れる必要はない。経験が糧となり、新機軸を生みだす。関電不動産開発は今後もさまざまな形の不動産開発を行い、マーケットでの存在感をより一層高めていくことになるだろう。